人生100年時代と言われる個人の時代、上司の在り方が確実に変わっています。
今までのように偉そうにしている上司は、どんどん存在価値がなくなっていく可能性が…。
元人事部長の現キャリアコンサルタントが新しい時代の上司の在り方・伝え方を解説します。
“上司の在り方”が変わる時代
マネジメントの在り方が変わる
働き方が激変している今、個人のキャリアへの主体性が大切であり、何か尖ったオリジナリティを持つことが未来を切り開く。このブログでは、そのことについて何度も取り上げています。
個人にとっては会社に雇われている時間は学びの時間であり、同時にリスクでもある。オリジナリティを発揮するには、自分の時間を使って社外で勉強する必要があるからです。
こんな時代が来ると分かったら、カンのいい上司ならお気づきでしょう。
「あれ?オレ、いらなくね?」
もちろん“いらない”は言い過ぎですが、実際僕は人事部長をしていてそう感じていました。
今後個人の時代になっていくのに、会社の都合や正義を押し付ける訳には行かない。時間も個人に与えてあげないといけない。なぜなら、会社は人生100年の責任なんてとれないから。正直、定年まで働ける環境をつくることはデメリットでしかないし…。
今までと同じようなマネジメントが必ずしも会社や部下にとっていいわけではないんですね。
ブルーカラーと言われるような仕事は今後急激に減っていく。
マネジメントの在り方が変わる。
それぞれが個性を発揮しないと立ち行かなくなる時代。部下本来の良さを引き出せる力は必要かもしれませんが、“言うことを聞かせる人”の存在価値は下がっていきます。
上司が『エライ』と何が起こっているか?
上下関係とは、上の者の言うことを下の者が無条件で聞くことを意味するような気がしませんか?昔は学校の先輩後輩なんてひどいものでした。なぜか廊下に立たされて、ほうきでみぞおちを突かれるなんてこともありました。
例えば会社の中でこれがあると(ほうきで突かれはしないけど笑)、「言わなくても分かるだろ」が横行します。これはつまり、部下に人としての対等な配慮を怠るということです。
『偉そうな上司』というのはそういうものです。
態度によって自分が上であることを示さないといけないのは、実力で示せていないからかもしれませんし、部下には配慮をしなくてもいいかのように勘違いしているからかもしれません。
偉そうな上司は、“上下”という概念自体が旧時代的。
「上司」「部下」という言葉にも、僕自身は違和感を感じながら使っています。それしか表す言葉がないから使っているだけです。
でもこれからの時代、会社と個人はどんどん対等な立場になっていきます。会社が囲える資源は昔ほど多くないからですね。
これを理解していない上司は、未だに昔ながらの上下があるかのように振舞う。まさに井の中の蛙状態です。
個人の時代とは、横並びの時代を意味しているんです。
上司も部下も対等だと思う所から始めないといけません。
個人の時代の指示・伝え方
ラポールの形成
では、新しい時代の上司の在り方・伝え方についてです。
基本姿勢としては『上司も部下も対等』ということ。であれば、対等に配慮をすることが大切です。
めんどくさがって、本来の人間関係に必要な手間ヒマを惜しんではいけないということです。
まず心がけてほしいことは、対話できる関係を形成することです。
ラポールを形成する。
例えば私たちキャリアコンサルタントは、キャリアカウンセリングをする際に「ラポール形成」から始めています。
いきなり本題に入らず、「相談は初めてですか?」など少し簡単にやり取りできる会話をする。安心感が出てきたら、少しづつ話を聞き出していきます。
もしこの手順をすっ飛ばして、「では結論から述べましょう」なんてカウンセラーが切り出したらどうでしょう?
事前情報だけを頼りに、最初から「もっと勉強した方がいいですよ」なんて言われたら、あっという間に嫌いになりますよね?
社内においては、頭ごなしに否定するとか部下の状況を確かめずに指示ばかり飛ばすようなやり方を指します。
そうではなく、まず必要なのは対等な立場としての配慮。確認や気遣い、相手の立場になること、考え方を尊重することなどです。
「いま大丈夫ですか?」
「その考え、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」
「それも素晴らしい案ですね。では、こちらの案もお伝えします。」
など、昔気質の上司なら「めんどくせえなあ!」と思ってしまうようなことを出来ないといけないと思います。時代は変わったのですから。
それから、これも重要です。
いきなり部下を呼び捨てにしたり、タメ口をきくのはやめましょう。(キャラクターにもよりますが)
なぜなら、「無条件で自分が上だ」という声なき声を伝えてしまう恐れがあるからです。自分が親しみを込めて言っているとしても、相手は自分と違う世界をずっと生きてきた人間です。自分の生き方をいきなり強要してはいけません。
優れた組織は、年齢に関係なく敬語を使っていたり、お互いを尊重し合ったりしています。
『共感>否定』(個性・個人の尊重)
上司としては、部下への否定を完全になくすことはできないかもしれません。会社は組織で動くものであり、部下の方が基本的には幼い考え方をしています。してはいけないことをすることもあるでしょう。
言ってしまえばそれも個人の責任であり、その結果人生が悪い方向に行くのは部下本人ですが、だからといって上司がとやかく言えないのかというとそうでもない。“害が出ているなら正す”ことが必要です。
そんな時のポイントは、『否定より共感の量が上回る』ようにすることです。
例えば、部下が別の上司の指示に腹を立て、何度か無視を繰り返してしまったとします。対話もなく、論理的に無視をしていい説明もなく、幼い態度でやってはいけないことなのは明らかです。
でも、ここで新しい時代の上司は我慢です。
「○○さんは、あの上司の発言が許せなかったんだね。分からなくはないかな。僕も昔さ、別の会社でムカつく上司がいて、ある時暴言を吐いちゃって。だってこっちも忙しいのに、次から次に仕事押し付けてくるからさ。もっとこっちの状況も考えろよ!って。でもそれがきっかけになって、僕の方が会社に居づらくなっちゃった。今は後悔してるよ。結局、それを論理的に説明できなかった自分の方が未熟だったんだよね、たぶん。○○さんはどう思う?」
というふうに気遣いながら考えさせてあげれば、部下もそんなに悪い気はしません。
ポイントはいくつかあります。
- 気持ちが分かることを説明してあげる。
- 一緒になって別の上司を悪者にしてはいけない。
- 良い・悪いの結論は相手に委ねること。
共感はしてあげても「悪くない!」とは言わない。「その上司が悪い!」と結論付けてはいけません。それは共感ではなく、ただの反乱分子の仲間集めになってしまいます。
頭ごなしに否定せず、手放しで部下に賛同もしない。このバランスをしっかり取れるのが、優れたマネジメントと言えるでしょう。
共感を示し、個人を人として尊重していることを信頼してもらう。
新しい時代の上司は、説き伏せるのではなく信頼を得て人をまとめていくものだと思います。
『論理体系・詳細・親しみ・面白み』のどれか
それから、部下の特性によって同じ内容でも伝え方を変えたほうが伝わりやすくなります。
※論理体系重視の部下は、共感を嫌がる可能性もあるので注意!
このブログでよく紹介している、思考特性の考え方をもとにしています。
- 分析型⇒『論理体系』で説明
- 構造型⇒『詳細』を説明
- 社交型⇒『親しみ』を持って
- コンセプト型⇒簡潔、壮大、『面白く』
あなたが上司なら、もしくは昇進を目指すなら、それぞれの伝え方ができるように訓練してみましょう。
例えば、「さっきの会議の資料、今日中にまとめといて」というようなドラマでありがちな指示を変換し、佐藤さんに伝えてみましょう。
『論理体系』
佐藤さん、ひとつ仕事お願いします。プロジェクトの進行は現在③のフェーズ。先の会議の決定が④のフェーズで使われますが、これ明日から行われます。つまり、今日中に資料をまとめないといけない。僕は決定どおり今から営業部に掛け合ってくるから、まとめの方をお願いします。
(結論ファースト。チーム全体の動きを話す。詳細までは伝えない。余計なことは入れない。)
『詳細』
佐藤さん、会議お疲れ様でした。佐藤さんはしっかりしてるので資料のまとめをお願いしたいんですが、いいですか?では、このフォルダに資料が入っているので、すべてをひとつのパワポにしてもらいたいです。コピーして貼り付けるだけでなく、順序通りに並べ替えて、繋がりを意識して文章の編集をお願いします。書体はメイリオがいいと思いますが、合ったものを考えてもらって大丈夫です。期限は今日の16時です。終わったら僕にメールしてください。何か質問はありますか?
(受け取れる状況か確認。詳細・プロセスまで説明。最後にまた確認。)
『親しみ』
佐藤さん!いや~、疲れましたね!のど乾いてないですか?ジュースどうぞ。実は、ちょっと大変なお願いがあるんですけど、今日忙しくないですか?今日中にさっきの会議の資料をまとめたいんですけど、僕が手を離せないので、一番信頼できる人にやってもらいたいんです。佐藤さん、お願いできませんか?
(共感、気遣い、距離の近さを意識。あなたじゃないといけない、あなたがいいという、メッセージ。)
『面白く』
佐藤さん、さっきの会議ワクワクしましたね!資料のまとめ、お願いしていいですか?佐藤さんならこの面白さをドカンと伝えられると思って!なんかこう、分かりやすくてインパクトのある感じにしたいですね。今日中なんですけど、めちゃくちゃイケてる資料に仕上げて出したら、社長ビックリしちゃいますよ!よろしくお願いします!
(期待している感じを熱を込めて伝える。細かく指示せず、自由度を残す。「すごいことだ」という使命感を醸し出す。)
色々考えなくちゃいけない上司の在り方・伝え方。大変ですよね。
それもそのはず。時代は会社中心から個人中心に移り変わり、社内の中間管理職の存在価値が問われ始めています。
今までと同じでは部下にそっぽを向かれ、市場価値すら下げることになってしまう。
そうならないように、古い上司像からの脱却。新しい上司、個人を尊重する上司像を獲得していきましょう。