キャリアコンサルタントとして、
元人事部長として、
父親として、
僕が“今一番問題だと思っていること”は「キャリア教育不足」です。
不足しているのは、子供・社会人・親すべて。
日本も教育現場も変わりたい。だけど変われない。
根本的な問題が解決されずに、方針ばかりが先に行く。
社会・教育現場の構造に無理がある。
しかし親としては、歪みが矯正されるのを待っている時間はありません。
今親として何ができるか?
僕は「キャリア」を学んだ者として、社会の現実問題を直視し続けてきた者として、声を大にして言いたい。
「キャリア」を学ぶべきです。
強化される「キャリア教育」
2020年教育指導要領「生きる力」
2020年に新しい学習指導要領が発表されました。
その名も「生きる力」です。
学習指導要領は10年ごとに更新されるので、僕たち親世代と子供が全く同じ教育を受けることはありません。
「生きる力」では、何を学ぶかだけではなく“どう学ぶか”が変わった。
『アクティブラーニング』の導入
今までの受動的(受け身)の教え方ではなく、能動的な学びを重視するもの。
ただの詰め込み式ではなく、グループ討論や体験により学びを深めるものです。
この教育改革、みなさんはどう考えるでしょうか。
僕はこう思います。
「いよいよ実質的な問題、根本的な問題を解決しようと動き出している」
僕は中小企業で人事を10年経験しました。最終的には組織の№2として、あらゆる問題に向き合ってきた。
会社を離れたあと、「キャリア」を学んで愕然としました。
「これを知らないんだから、解決しづらいわけだ…」と。
そして文部科学省では、まさにその解決に取り組もうと「キャリア教育」の強化に乗り出した。
方針としては社会も子供たちも親も、みんなが望む方向に間違いありません。
注意ポイント
しかし、”強化”ということは、前から「キャリア教育」はあったということです。
実は、キャリア教育が始まってから19年が経っている。
なぜその認識がないのでしょうか?
僕たちが小学校のころよりも明らかに“職業体験”などが増えているのに。
結果19年経った今も社会では問題が起き続け、キャリア教育を強化するに至っています。
キャリアコンサルタントの誕生
キャリア教育はなぜ浸透しないか?
それは簡単なんです。
キャリア教育を知らない大人が教えないといけないからです。
社会では職業選択に悩む者やアイデンティティを確立できない社会人が増え続けている。
特にグローバル化が進み、ついていけなくなる人材が多く出始めている。
社会全体に「主体性」が不足している。
学校も社会も、同時にキャリア教育をしていかないといけないのが現状。
そこで、働く人の"自立"を促すために私たちキャリアコンサルタントが生まれました。
職業選択や能力開発をするスキルが不足している現代の問題を解決すべく、
厚生労働省はキャリアコンサルタントを10万人に。
今の2倍にする計画を立てています。
そうして、自分らしく働ける人を増やし、日本全体の生産性を上げようとしているんですね。
【変革の背景】社会の問題
では、背景となる社会問題は何でしょうか?
「主体性」が不足しているとはどういうことでしょうか?
①学校から社会への移行をめぐる問題
採用合戦により、働く人に合った仕事を探すことが難しくなっている。
勤労観、職業観の未熟さと確立の遅れ
社会人、職業人としての基礎的資質・能力の発達の遅れ
社会の一員としての経験不足と社会人としての意識の未発達傾向
②生活・意識の変容
身体的な早熟傾向に比して、精神的・ 社会的自立が遅れる傾向
生活体験・社会体験等の機会の喪失
高学歴社会における進路の未決定傾向
職業について考えることや、職業の選択、決定を先送りにする傾向の高まり
自立的な進路選択や将来計画が希薄なまま、進学・就職する者の増加
これは文部科学省が言っていることではありますが、実体験として感じたこともあるのではないでしょうか。
世の中はグローバル化し、変化が激しい。
役職に就いたら安泰なんてことにはならない。
今までの会社でピラミッド型となる日本型雇用は終わり、一人の社会人としての生産性を問われる。
生産人口は減り、女性もシニアも社会進出を求められる。
共働きが増え、高年齢化し、今まで働かなくてよかった人が働かなければいけなくなる。
色んな意味で『安心』の場所は無くなります。
親ができることは「安心の場所」を示すことではありません。
危険に対して正しく処理をできる「生きる力」を養うことです。
「公務員になれば安心」という教え方は、生きる力を弱めてしまう可能性があると知らなければいけません。
学校は何を教えるのか?
では学校では何を教えるのか。
「教科」としての勉強はできる
学校が教えるのは「教科」です。
例えば、新しい教育指導要領では以下が追加・もしくは強化されることになりました。
- プログラミング教育
- 外国語教育
- 道徳教育
- 言語能力の育成
- 理数教育
- 伝統や文化に関する教育
- 主権者教育
- 消費者教育
- 特別支援教育
プログラミング教育や英語に関しては知っている人も多く、なぜ必要なのかも直観的に分かるかもしれません。
しかし、その他はどうでしょうか?
(「主権者教育」「消費者教育」を子供が教えて~と言ってきたら、僕は自信がありません)
こういった「教科」を教えてくれるようになるんですね。
ここで注目したいのが、『道徳』です。
一度なくなった教科が、なぜ今再開されるのでしょうか?
僕が社会で問題だと思っていたことが、実はモラル。
つまり道徳です。
モラルの低下した会社が生き残っていける時代ではない。
それを強く実感していたからです。
やはり、「教科」も的を得ていると思います。
方向は間違っていないはず。
だけど、本当に「教科」として教えるだけで現実に起こっている問題は解消されるでしょうか?
「問題解決」が困難
根本的な「問題解決」は、難しいと思っています。
それはなぜか?
今の教育や社会の構造に無理があるのではないか。
とてもいい方向に向かおうとしている。
「キャリア教育」が進めば、自己理解が進み自分らしく働く道を模索し始める。
多様な人材が活かされるようになり、今まで活躍できなかった人が活躍できる世の中になる。
主体性が高まり、日本の生産性は上がっていく。
しかし、教育の現場が満足に教育をできるようになるのはあと何十年先か見えもしない。
教育がうまくいったとして、その子たちが飛び立つ社会はキャリア教育が進んでいるのか?
同時多発的にキャリア教育を進めていかないといけない。教育の現場も変わらないといけない。
だけど、そんなに早く構造は変わらない。
社会の変化は止まらないのに、です。
学校が抱える課題「なぜ変われないか?」
では、学校はなぜ変われないのでしょうか?
学校の先生は忙しすぎるんです。
朝7時から学校に行き、23時まで次の日の準備をすることもしばしば。
校内の組織体は企業のように成熟していない。先生同士のいじめがあることも。
普通のサラリーマンからは考えられないような働き方です。
対してフィンランドは、理想的な教育の形だと言われています。
- 先生は各教科を教える。
- スポーツは近くのクラブチームが教える。
- 進路指導は親がやる。
これが当然だそうです。
日本はどうでしょう?
- 小学校では、担任の先生が全教科を教える。
- 部活があればスポーツも先生が教える。
- 進路指導も先生がやる。
よく考えたら、「なぜこうなってしまったの?」と言いたくなるような状態ですよね。
とてもではないが効率が悪すぎて、新しいことに取り組むどころではない。
文部科学省は「アクティブラーニングに変えてください」と担任に投げかける。
しかし、それを言われた担任はどう思うか…。
親はそれでも、進路指導を先生に任せるでしょうか?
当然、僕は親としてそうは思いません。
「親がやるべきこと」だと思うのが健全だということになります。
親が知るべきこと
では、親が知るべきことは何でしょうか?
「変革」は何の問題を解決しようとしているのか?
まずは、なぜ国はキャリア教育を強化しようとしているのか?
社会には何の問題があるのかを捉えることです。
このままでは日本はマズイ。だから国は変革を起こします。
そして変革の歩みは決して速くない。
社会で起きている問題に、ついていけていないのが現状です。
- 中年がキャリアストップし、若い人材が育たない土壌を作っていないか?
- アイデンティティを確立しないまま社会で言われるままに働き、自分を見失っていないか?
- いざ今の仕事がなくなった時に、どんな生きていく力を持っているのか?
自分を見失って悪いのか?
言われるがまま働いて悪いのか?
悪くはありません。危ないんです。会社に雇用されるという安定はなくなっていくからです。
自分を確立する「自己理解」。
能力を持ち運び可能にし、その会社での能力ではなく市場価値を上げる「能力開発」。
どのように生きていくか決めるために必要な「会社理解」。
これらを学ぶのが、「キャリア教育」です。
「キャリア」の観点で子育てをする
「キャリア」の観点というのは以下のようなことです。
キャリアは人生の道そのものです。
過去から未来へ続いていく道。
子供が社会で生きるための力をつけさせるための教育。
本質的な教育のこと。
良い大学に行ければ安泰という時代が終わりました。
子供の未来にどんな変化が起こるかは読めません。
キャリア教育は、どんな時代にどんな変化が起きても力強く生きていくための学び。
目的を社会での活躍に見据えること。
今学んでいることは、社会でどのように活かせるのかを考えながら教育することです。
そのための指針が以下の「基礎的・汎用的能力」です。
この4つの能力を念頭に置きながら教育にあたることが大切です。
人間関係形成・社会形成能力
- 他者の個性を理解する力
- 他者に働きかける力
- コミュニケーションスキル
- チームワーク
- リーダーシップ など
自己理解・自己管理能力
- 自己の役割の理解
- 前向きに考える力
- 自己の動機付け
- 忍耐力
- ストレスマネジメント など
課題対応能力
- 情報の理解・選択・処理等
- 本質の理解
- 原因の追究
- 課題発見、計画立案、実行力、評価、改善 など
キャリアプランニング能力
- 学ぶこと・働くことの意義や役割の理解
- 多様性の理解
- 将来設計、選択、行動と改善 など
かなり項目は多いですが、焦ることはありません。
この中で最も重要で、学校では教えるのが難しいものが『自己理解・自己管理能力』。
親は子供の『自己理解』に大いに影響を与えることができる。
『自己理解』だけに絞って意識しながら子育てをするだけでも、かなりの成果が期待できます。
今現在、社会での問題はほとんどがこの『自己理解不足』に起因しています。
子供の【興味領域】を広げる
ここで注意したいのが、『発達段階』です。
人間の発達には段階があり、段階ごとに伸ばすべきポイントが変わります。
下は、エリクソンが提唱した【個体発達分化の図式】です。
発達段階 | 発達課題vs心理的危機 | 発達のテーマ |
1.乳児期 | 基本的信頼 vs 基本的不信 | 希望 |
2.幼児前期 | 自立性 vs 恥・疑惑 | 意思 |
3.遊戯期 | 自主性 vs 罪悪感 | 目的 |
4.学童期 | 勤勉性 vs 劣等感 | 有能感 |
5.青年期 | アイデンティティ vs 混乱 | 忠誠 |
6.成人前期 | 親密性 vs 孤立 | 愛 |
7.成人期 | 生殖性(世代性) vs 停滞 | 世話 |
8.老年期 | 統合 vs 絶望 | 英知 |
各発達段階ごとに「乗り越えるべき課題」がある。
その課題を乗り越えられないと「危機」が訪れる。
乗り越えることで「発達のテーマ」である『徳』が得られる。
というものです。
そして日本の学校では、以下のように発達の段階と発達課題が設定されています。
小学校
①進路探索・選択にかかる基盤形成の時期
②自己及び他者への積極的関心の形成・発展
③身のまわりの仕事や環境への関心・意欲の向上
④夢や希望、憧れる自己イメージの獲得
⑤勤労を重んじ目標に向かって努力する態度の形成
中学校
①現実的探索と暫定的選択の時期
②暫定的自己理解と自己有用感の獲得
③興味・関心等に基づく職業観・勤労観の形成
④進路計画の立案と暫定的選択
⑤生き方や進路に関する現実的探索
高等学校
①現実的探索・試行と社会的移行準備の時期
②自己理解の深化と自己受容
③選択基準としての職業観・勤労観の確立
④将来設計の立案と社会的移行の準備
⑤進路の現実吟味と試行的参加
という形です。
特に「段階に注意」したいのは、小学校時代までに興味領域を狭めないことです。
小学校の段階では、興味・関心を抱くことが課題であり、選択をする時期ではありません。
『キャリア』というと、どうしても一定の職業や働き方を目指すというイメージがある。
しかし、本当のキャリア教育はそうではありません。
小さい頃は可能性を広げることであり、狭めることではありません。
例えば、小学校で職業体験に行ったあとにその職業だけに魅力を感じ進路を絞ってしまうと、他の可能性を見落とす可能性がある。
- 好きなことはどんどん学ばせてあげる。
- その他の興味にも気づかせてあげる。
簡単に聞こえますが、意識が必要です。
親の「当たり前」を排除することが大切です。
例えば、子供が「おとなしい」とします。
親は「明るい」ことに価値を感じているので、「もっと明るくなりなさい」という。
ということは、「おとなしいのをやめなさい」ということです。
しかし、「おとなしい」ことの社会的価値を見落としていないか考えることが大切。
・謙虚である
・争いを起こさない
・着実に事をこなす
などはどうでしょうか。
子供の何か悪いところ・直したいところがあったら、反対の面も見てみましょう。
これも、子供の可能性を2倍にも3倍にも伸ばす方法です。
何かを決めるというのは、何かを捨てるということ。
あまり小さなうちから「職業」を目指すことに固執せず、「興味領域を広げる・深める」ことに意識を向けてみましょう。
その「職業」が将来残っているかどうかは分かりませんから。
【自己理解スキル】盤面上の位置を知る
自己理解には、知らないと分からないこともあります。
「キャリア理論」では、そのような理論を学びます。
理論は盤面のようなもの。
将棋や囲碁やチェスなど、全体を俯瞰して見るものです。
それがあることでようやく、自分がどこなのかが分かります。
例えば、「地図」という存在を知らなかったら今自分がどこにいるのか分かりません。
自己理解に関するキャリア理論は「地図」であり「盤面」です。
最後にいくつか理論を紹介しますので、まずは自分を当てはめてみましょう。
今までよりもずっと「自己理解」が進むはずです。
上に挙げた【個体発達分化の図式】と合わせて活用してください。
RIASEC(リアセック)
6つの興味領域
Realistic現実的領域
機会や物を対象とする具体的な活動をするのが好き
(例:技術者、機械オペレーター)
Investigative研究的領域
研究や調査などのような活動をすることが好き
(例:研究者、学者)
Artistic芸術的領域
音楽、美術、文学など芸術的な活動をすることが好き
(例:ミュージシャン、デザイナー)
Social社会的領域
人に接したり、奉仕的な活動をすることが好き
(例:教員、販売員)
Enterprising企業的領域
新しい企画を考えたり、組織を動かすような活動が好き
(例:放送ディレクター、会社経営者)
Convensional習慣的領域
定まったやり方に従って、手堅い活動をすることが好き
(例:技術者、機械オペレーター)
キャリアアンカー
どのような働き方を好むか
専門・職能別能力 | 特定の分野で能力を発揮し、自分の専門性や技術が高まることに幸せを感じる |
全般的経営管理能力 | 集団を統率し、権限を行使して、組織の中で責任ある役割を担うことに幸せを感じる |
自立・独立 | 組織のルールや規則に縛られず、自分のやり方で仕事を進めていくことを望む |
保障・安定 | 一つの組織に忠誠を尽くし、社会的・経済的な安定を得ることを望む |
起業家的創造性 | リスクを恐れず、クリエイティブに新しいものを創り出すことを望む |
奉仕・社会貢献 | 社会的に意義のあることを成し遂げる機会を、転職してでも求めようとする |
純粋な挑戦 | 解決困難に見える問題の解決や手ごわいライバルとの競争にやりがいを感じる |
生活様式 | 個人的な欲求や家族の願望、自分の仕事などのバランスや調整に力を入れる |
過渡期
人には人生の転換期となる「過渡期」がある
成人への過渡期(17~22歳)
自分で人生を切り開く自覚を持つ時期。
アパシー(無力感)、離人感(自分が自分でない感覚)が課題。
30歳の過渡期
可能性が限定される時期で、
生活修正が起きる。
人生半ばの過渡期(40~45歳)
自分らしさの模索・葛藤を通じて、
真の自分として生きることを決断する時期。
老年への過渡期
死を受容しつつも、新たな生への希望を獲得する時期。死への恐怖や役割の喪失感により、孤立化が進む。
転機
以下のいずれかの変化を伴うものを転機と言う。
①役割:人生の役割が変化もしくは消滅
②関係:大事な人や組織等との関係が変わる
③日常生活:いつ、どのように物事を行うかの変化
④自分自身に対する見方:自己概念に変化が生じる
転機には3つの種類がある。
①予期していた転機
自身で決めて生じさせたり、人生の通過点そして予測されたもの。
②予期していなかった転機
突然予期せず起こる、とくに準備をしていなかったもの。
③予期していたものが起こらなかった転機
当然起こるであろうと予期していたが実現しなかったもの。
転機の乗り越え方4S
□状況(Situation):置かれた状況をどう見るか
□自己(Self):対処できる自分かどうか
□支援(Support):どのくらいの支援が得られるか
□戦略(Strategy):可能性のある対処戦略の評価