ついに70歳までの定年引上げが努力義務に。20年前の社会人からすると想像もつかないことが現実となり、今後より加速していきます。
実態が伴わないかに見える高齢者の実働。長期化し続けるキャリアの形成に、企業や個人はいったいどうしていけばいいのか?
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【長期キャリア】『70歳就業法』の変更点
背景~長期キャリアについて
令和3年4月1日から『高齢者雇用安定法』が改正されました。ニュースなどで『70歳就業法』などと言われるものです。
簡単に言えばこういうことです。
定年を70歳にしましょう!
努力義務なので今のところ必ずやる責任はないですが、いずれ義務化されていくかもしれませんね。
まずはこの背景からざっくりおさらいします。
- 人口減少社会
- 生産人口の減少
日本では人口が減っていくことが確実であり、特に生産人口と言われる“働く世代”の減少が問題になっています。当然経済が上向くことはあり得ないのですが、少しでもそれを食い止めようということですね。
国としては今まで働いていなかった属性の人を生産人口に変えるため、「主婦・主夫」「高齢者」「外国人」を社会に出そうとしています。
このうち、「主婦・主夫」に関してはすでにいい風潮が出来上がってきました。「外国人」に関しては新しいビザの発行までしましたが、その矢先にコロナが来て先行きが不透明。次には医療テクノロジーの発達に期待しつつ、「高齢者」にどこまで働いてもらえるかが大事なわけです。
過去を振り返ると、定年65歳までの努力義務、65歳までの義務と流れてきているので、段階的に仕事をする期間を長くしようという狙いが見えます。医療が発達しないと不可能だったことが、今は現実のものとして見えてきているんですね。
すると、経済の低迷で会社で長期に養えない事実とは裏腹に、働く期間は長くなります。今回の改正も、この点の価値観の変化が面白いところです。
『70歳就業法』具体的になにをするか
では何が改正されたかと言うと、大きく言うと以下の点です。分かりやすい言葉に変えて書きます。
- 70歳までの定年引上げ、もしくは定年廃止
- 定年後でも70歳まで働けるようにしよう
- 70歳までその他の方法で収入をつくろう
まだ努力義務なので強制力はありませんが、各種助成金などでなんとかやってもらう施策を打っていくでしょう。大切なのは「長く働けるようにしてね!」ということです。生産人口を減らしたくないんですね。
「定年の引き上げをして、出来れば定年なんてなくしちゃってくださいね!」
正直、引退しなくて済むならしないで欲しいということ。でもさすがにパフォーマンスを落とさずに働くのは無理だし、企業にとってのリスクを理解しているから政府も強くは言えません。「なんとか80歳まで働ける環境をつくって下さいよ~」というのが本音でしょう。
「定年が無理だとしても、再雇用で70歳までなんとかなりませんかね!?」
定年後に働かせてはいけないなんて法律はないので、出来ればまた雇用契約を結んで、みんなに稼いで欲しいわけです。そう考えると、『年金』という制度を普遍的なものであるかのように教えてきてしまったことにも責任がありますよね。
「さすがに会社が雇用するリスクは高いですよね…じゃあ業務委託でどうですか!?」
ということで、3つめの「その他の方法」で明示されているのが「業務委託」と「社会貢献事業」です。つまり、雇用しなくていいからと。そこまで会社で責任持たなくていいから、なんとか仕事を与えてやってくれないかということです。
ここが面白い所なんですが、『創業支援等措置』と書いてあるんですね。「高齢者を個人事業主にする支援をしてあげてね」ということです。
緩やかに、でも着実に、個人の時代を象徴するかのような文言です。大きな価値観を転換を感じますね。
詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。
⇒厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~」
高齢者フリーランス化へ
このブログでは何度も取り上げている『個人の時代に備えましょう』ということ。おそらく『雇用』という意味や価値が全く違うものになっていきます。雇用が安定という認識は消え去り、雇用=不自由=不安定とも取れる時代になっていくでしょう。
現実的に70歳まで雇う会社はそんなに増えないはずです。会社という存在も、「若い人達が修行する場所」というような価値観になっていくでしょう。
長期キャリアを形成するポイントはフリーランス化。
フリーランスという言葉自体の意味もおそらく変わります。今は個人で頑張って切り開くイメージがあると思いますが、あと10年後にはすでに“道”が出来上がっているでしょう。
急激に増えるフリーランスの存在が認識されていく中で、新しい働き方が創造されていくと思っています。
なので、「個人事業主になんてなりたくない」と考えている人もそんなに心配しなくてもいい。いずれ当たり前になり、誰でも出来るようになっていくはずです。
でも大切なのは、自分は何が出来て何が出来ないのか?自分の個性、特性は何なのかを発見しておくことです。自分の形さえはっきりしていれば、その形がハマる道は周りでどんどん出来上がっていくでしょう。
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【長期キャリア】『70歳就業法』で見える自分の未来
企業の実態はどうか
では、現時点で企業側はこの法改正をどう捉えているでしょうか。帝国データバンク調べで分かった「70歳までの就業機会書確保」への対応予定です。
70歳までの継続雇用制度の導入…25.4%
業務委託契約を締結する制度導入…6.9%
定年制の廃止…5.1%
70歳までの定年引上げ…3.4%
継続的に事業に従事…2.8%
もともと70歳まで働ける…16.4%
対応は考えていない…32.4%
分からない…14.9%
僕は企業で10年以上人事に携わってきたので、会社視点で解説しましょう。
まず、一番当たり障りないのが継続雇用(25.4%)です。これは「働けない状態なら契約しません」ということなので、企業にとって一番リスクの少ない選択と言えるでしょう。「あとで絶対やらなきゃいけないんでしょ」とも思っているでしょうね。
定年を廃止(5.1%)したり、引き上げ(3.4%)たり、わざわざ業務委託(2.8%)を増やしたりという選択は少ない。これが可能な仕事というのは、現時点では限られているからですよね。もともと働けるよ(16.4%)という所が多いことから、「できるならもうやってるよ!」ということ。
そして考えられない(32.4%)、つまり「今は無理だよね。限界だよ。」ということです。
「分からない」(14.9%)というのも、そもそも現時点でそこまでの年齢で働いている人がいない。将来医療はどこまで発達してくれるんですか?70歳でピンピン体が動くようにしてくれるんですか?それが分からないんだから答えが出ないよ。ということですね。
ひっくるめて言えることは、会社側はそろそろここで限界ということです。
そう、いくら長く働かせてくれと言われても企業には限界があります。
会社はどうすればいいか
では企業はどうすればいいのか?
もちろん政府の言うように社員には長く働いて欲しいですが、会社が潰れてしまったら元も子もありません。古い考えでは変化し続ける時代に対応しきれないし、高齢者を給料下げず雇うのは不可能でしょう。
会社にとって大切なことは、柔軟に価値観を変え個人の時代を受け入れていくことです。
「これから個人の時代がやってきますよ!」「個人のみなさんは自分の力で生きていける力を身に付けてくださいね!」と言われているのに、例えば副業が出来ないなんて言ったら個人にとってはとんでもないリスクです。
「働き方改革なんて甘っちょろいこと言うな!」なんて言ってる会社は古すぎる。働き方改革は、甘いものでもなんでもなく、むしろ甘えのきかない厳しい時代への準備です。
どんな場合に副業していいのか。副業をする場合には何を守ればいいかなどの取り決めが必要です。
また、雇用を守るために新しいテクノロジーは使わないというのも本質的ではありません。万が一会社が存続できなかった時、古い体質で囲われてきたその社員たちは飛べない鳥状態になってしまいます。
むしろ積極的にテクノロジーを導入し、機械ができる仕事を人から奪い、人だからできる仕事を創出することが大切です。
内部で社員を雇わなくなった分、機械で人件費が浮いて効率的に利益を上げられるようになった分、外にある人的資源を効率用よく使いましょう。
外部の人的資源(フリーランス等)を効率よく使える体制にシフトする。
例えば僕は『社外人事部長』をやっています。
人事部長は人事部門の人を育てたり制度をつくったりするので、いわば自分が必要なくなるような体制をつくるのが仕事です。中小でずっと同じ会社に居続けても、そんなに給料をもらうほどの仕事は減っていくわけですね。(成長し続ければ別ですが)
だから複数の会社にこのノウハウを提供する。ある分野で特化したら、その力を求めている会社が多く存在しているはずなんです。
このように、外にいるプロフェッショナルを使えば会社はより早く成長し、しかも雇用するリスクもなく、何千万円も生涯年収に投資するようなことをしなくてすむ。メリットが非常に大きいんですね。
個人はどうすればいいか
となると個人がなりたいのは『プロフェッショナル』ということになります。
これだけ聞くとかなりハードルが高く感じると思いますが、最後にその価値観を捨てて欲しいと思っています。
個人は超ニッチな市場を見つける。
プロフェッショナルに今すぐなれる場所が見つかればいい。
今からデザイナーとしてプロフェショナルになれとか、職人としてプロフェッショナルになれと言われたらそれは大変です。
野球やサッカーのプロになるのは難しいですが、新しいスポーツを生み出してしまえばその瞬間にプロですよね。
変化の激しい世の中ですから、長く経験が必要なものよりも、組み合わせて独自性を生み出せるものを探しましょう。
例えばひとつひとつでは大きな収益が望めないと思われる経験や興味を組み合わせてみましょう。
- 仕事でお客様への商品説明、反響営業をよくしていた。
- 料理が得意で野菜について少し詳しい。
- 心理学に興味がある。
⇒営業の経験を活かし「人の心の健康に影響する野菜の採り方」という題材で1時間ぐらいの説明にまとめ、SNSやスキルシェアで興味のありそうな人に投げかけて売ってみる。
かなりエッジのきいた独自性があるうえに、野菜ソムリエの資格や心理学の資格を取ると、さらに信頼度アップです。
そのためには勉強時間を確保することが大切です。今している仕事だけでは、誰かと同じまま。誰でもすぐにプロフェッショナルになれるような独自のフィールドを発見するには、一見関係のなさそうな事といかに組み合わせられるか。
お客様は全世界にいると思えば、どんなにニッチでもチャンスは多く見えると思います。
「でも何から手を付ければいいか分からない!」という人は多いと思いますが、そのために私たちキャリアコンサルタントがいますので、ぜひ頼って下さい。ヒントは自分の奥にある見えない特性に必ずあります。
このブログでは度々そういった「個性の活かし方」について書いていますので、他の記事も参考にしてみてください。
自分が70歳になる世界を、このブログを見ていただいている方はなかなか想像できないと思います。安心してください。誰もその未来を予測できていません。
明らかなのは、会社の外に働ける環境がどんどん生まれているし、数年すればそれが当たり前になり大きく価値観が変わるということ。
だからその時に備えて、空いた時間があれば自分の特化した領域と仕事を繋げる勉強を継続して行っていきましょう。キャリアはプランの中ではなく、今ここにいるあなたの中から形成されていくものです。